静寂ノ声

声にならない叫びをありのまま書きつける。

【旧帝大英語リレー 4/8】2018・大阪大学(外国語学部)

旧帝大英語リレー第4回です。

今回は大阪大学です。また大阪大学です。

ただ今回は外国語学部の問題です。

大阪大学国語学部と言うと「外語は阪大じゃない」と外語以外の皆さんからハブられる命にあるものですが、英語は外国語学部のお家芸なんで他学部の問題より難しいよ。

阪大が犯大になった今はあんまり気になりませんがね(?)

 

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zekkiyoumachine.hatenablog.com

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1.構成

  • 大問5題構成。大問2(長文読解)・4(和文英訳)・5(リスニング)で外国語学部独自の問題が出され、大問1(英文和訳)と大問3(自由英作文)は他学部の大問1・3と同じ問題が出題される。
  • 制限時間はリスニングを含めて120分。他学部の問題が暇なのに対して外国語学部の問題は長文が長くて時間がかかるので120分でちょうどいいぐらい

 

2.難易度

  •  大問2(長文読解)は記述式の問題が7問出題された。総じて標準的な問題だが、設問(6)はやや難、設問(7)は難。
  • 大問4(和文英訳)はピース又吉の著作から出題された。(1)はやや易で他学部用問題より易しい印象。(2)は標準、(3)は難。
  • 大問5(リスニング)は去年突然変異で出題された穴埋め問題が消えて記述式の問題が5問出題された。去年が易しかった分難化しているが阪大外国語ではよくあるレベル(一般的にはやや難~難)。読まれる英文は読解で言うと標準だが、今年は700語を超える長いものでそれを耳で聴いて設問に答えるということを考えるとやや難。

 

3.気になった問題 <第2問・設問(4)>

今回の設問の選び方は優れていたと思う。1500語程度の本文に7箇所下線が施されそれについて問う形だったが、設問に解答することで本文の理解の手助けになる良い作りだった。本当はすべてを語りたいのだがある程度短い記事にしたいので1問だけピックアップしてコメントする。

設問文の指示は「下線部(4)はどのようなことか、日本語で説明しなさい。」で、下線部(4)の内容は "this kind of change"だった。

まずthisという指示語があることから指示内容は比較的近くだとわかるので解答根拠(下記)を発見するのは難しくない。

At this point and by some mysterious process, our infant begins to use his perceptual system, rather than being used by it. Internal memories and expectations control the baby's behavior, and he uses his perceptual system to realize these expectations.

ところがここには小さな罠が隠されている。実は上に引用した2文は下線部(4)の直前にある。それゆえ太字+下線で示した後半の文を発見したところで満足して解答を書き始めるように誘導されてしまう。

でも下線部をよく見てほしい。 "this kind of change"(この種の変化)とあるだろう。変化の説明をするためには「もともとはA(変化前)だったものがB(変化後)に変わった」という風に変化前と変化後の状態を挙げなければならない

日常的な例で言うならば、「俺自転車乗れるんだ」と唐突に言われても「そうなのかー」で済まされてしまうだろうが、「今までずっと乗れなかったんだけど一生懸命練習したから今は俺自転車乗れるんだ」と言われたら「そりゃすごいね」とかなるだろう。

よって太字+下線だけを訳しても変化後の情報だけを述べたことになって不十分なのだ。そこで直前の文を見ると、use his perceptual system(≒太字+下線), rather than being used by it(変化前の情報)という表現がある。ただし、これをただ訳しても解答として完成しないからこの部分を説明を前に求めて解答を仕上げることになる。

その上で各予備校の出した解答速報と私の解答を紹介しておくことにする。

 

駿台

赤ん坊が1歳になると、その行動は知覚に左右されるのではなく、記憶や予想に基づいて行動するようになり、知覚を利用してそうした予想が現実であるのかどうかを確認するようになること。

 

代ゼミ

記憶や予期が行動を統制するようになることで、赤ん坊が知覚に振り回される状態から、知覚を使って予期していることを実現する状態へと変化すること。

 

東進

1歳になるまで赤ん坊は知覚のままに行動するが、1歳を超えると記憶と予想がその行動を制御するようになり、知覚を利用して対象物を探すことができるようになること。

 

河合塾

生後1年になるまでは自分の知覚系のなすがままだった赤ん坊が、1歳になる頃には逆にその知覚系を使い始め、記憶と予測に従って行動し、こうした予測を実現させるために知覚系を使うようになること。

 

絶起用マシン

場当たりの認知に駆られて行動していた赤ちゃんが、1歳を超えると逆に記憶や予期に基づいて行動し、その予期していることを実現するために認知機能を利用するようになるということ。

 

すべて方向性としては同じといえるだろうが、以下の二点についてはいくら解答速報とはいえよろしくないだろうと思うので書いておく。

  • 駿台の解答は全体として日本語が拙い。「その行動は知覚に左右されるのではなく、記憶や予想に基づいて行動するようになり」という部分は「行動」が重複しているように感じられ読みにくい。「その行動は知覚ではなく記憶や予想に基づくようになり」と書くべきだろう。「そうした予想が現実であるのかどうかを確認する」という部分は本当に拙い日本語だと思う。意図するものがどちらかはわからないが、「そうした予想が実現可能であるか」とか「そうした予想が現実と合致しているか」のように書きなおすべき。
  • 東進の解答の「対象物を探す」は、おそらく前段落のobject permanenceを受けたものなのだろうが、下線部はそれだけに限定したものではないから不適切で減点対象になると思う。
  • 河合塾も解答の後半部分「1歳になる頃には逆にその知覚系を使い始め、記憶と予測に従って行動し、こうした予測を実現させるために知覚系を使うようになること」で「知覚系を使う」という表現を重複させていて日本語が拙い。「その知覚系を使い始め」の部分をカットして「1歳になる頃には逆に記憶と予測に従って行動し、こうした予測を実現させるために知覚系を使うようになること」とすればすっきりするだろう。

 結局個人的に完璧と言いうる解答は代ゼミのものだけだと思う。もし私が採点官で10点満点でこの設問を採点せよと言われれば、駿台5点(後半全体を採点対象にしない)、代ゼミ10点東進5点(「対象物を探す」で5点減)、河合塾9点(「知覚系を使う」の重複で1点減。恐らく大学側の採点では10点にしてくれる)にする。

 

 

以上です。

これ以降は以下のように進めていく予定です。

第5回・名古屋大学

第6回・九州大学

第7回・京都大学

第8回・東京大学(2本になる予定)

 

P.S.

駿台の英語科は記述問題の解答として拙いものを出すことが多いように感じられる。大学側が求めている解答は空回りしたイキリではなくて的を射た明瞭なものであろうことぐらい想像に難くないと思うのだが。